35%の医師が専門とする診療科を変更 or 現在・過去に変更を考えています

医局の師弟関係が崩れたことも原因

医師の人生は、医療を取り巻く環境、医局・職場の人間関係、プライベート(結婚・出産・育児)などによって大きく左右されます。そして場合によっては、それまでの地位や立場を離れて、新しい道を模索することも選択肢の一つとなります。

比較的早い段階で直面する岐路のひとつとして、専門科目の見直しが挙げられます。大学を卒業後、特定の診療科で経験を積んでいくうちに、「このまま同じ診療科にいていいのだろうか?」と漠然とした疑問が頭を過ぎったことのある方は少なくないはずです。

特に心臓血管外科や脳神経外科など高度な手術と体力が要求される分野では、30代は大丈夫でも、40代半ばあたりから不安を感じ始め、内科系の診療科に転化する例は少なくありません。

現役の医師の方を対象に「日経メディカル」が実施した調査(634人が回答)によると、転科の経験がある医師は16.7%、転科を現在考えているor過去に考えた医師は18.3%にのぼっていることがわかりました。

世代間で考え方に違いが出ています

調査結果を世代別に表したものが上のグラフですが、若い医師のほうが、診療科を変更したり、変更を考えている割合が高いことが分かります。この背景には、転科に年齢制限はない(美容外科など一部の特殊な診療科を除く)ものの、その後の専門医取得などを考えた場合、より多くの症例が経験できる若いうちのほうがよいという事情がまず考えられます。

また、大学医局の影響力が弱まったため、医局内での師弟関係が崩れつつあることや、複数の疾患を抱えている高齢者が増加し、他科と連携して治療にあたるケースが増えたため、自身の経験とスキルを生かせる診療科を見出しやすくなったことも関係しています。その他の理由としては、現在の若手医師は、さまざまなな診療科をローテーション形式で経験できる「新医師臨床研修制度(2004年)」を経てきているので、転科への抵抗感が少ないことが考えられます。

転科を考えた理由のNo.1は「他の診療科に興味や魅力を感じるようになった」

医師が転科を考えるに至った理由としては、転科先の診療科の「+(プラス)」の部分を評価しているのか、現在の診療科の「−(マイナス)」の部分を嫌っているのか、あるいはその両方なのかが考えられます。

決断に至る理由は人それぞれ

最も多いのが「別の診療科に興味や魅力を感じるようになった」という回答で、純粋に他にやりたいことを見つけたというもの。例えば、脳神経外科医が、脳卒中の後遺症と闘う多くの患者と接するなかで、リハビリテーション科に興味を持ったとすれば、それはこれまでの専門知識を新しい科で活かすこと可能です。この例では、上のグラフにある「体力面への不安」や「訴訟リスク」など外科領域の医師が抱える不安要素も同時に解消するため、「納得のいく転科」ができる可能性が高いでしょう。

逆に、別の診療科に興味や魅力を感じていても、現在の診療科と関連性が全く無い場合(ex循環器内科から眼科、精神科など)は、これまでの経験が給与に反映されることもなく、完全に「リセット」された状態からのスタートとなりますので、「納得感が得られない転科」になる可能性があります。特に「医局や職場内の人間関係」、「現在の科が自分に合わないと感じた」などのマイナス面だけで転科を考えた場合、数年後に全く同じ壁にぶつかり、医師としてのキャリアが「行き詰る」ことが想定されます。

その他の理由としては、「将来の開業を見据えて、患者数の多い診療科に行きたい」、「家族の病気や介護など家庭の事情」などが挙げられています。前者は、今後需要が高まる診療科を分析し、これまで培ってきたスキルをできるだけ活かせる分野を選ぼうという、現実的な考え方をしている医師が多いことを示しています。

不安な点は「新しい診療科における技術の習得」、「専門医資格の取得」

転科を希望していても、実現の段階に至るまでには、解決すべきさまざまな不安が障壁となって、医師の前に立ちはだかります。多いのは、やはり「新しい診療科で知識や技術をちゃんと習得できるかどうか」、「専門医・認定医を取得できるか」というキャリアの根幹に関する不安です(下のグラフ参照)。

実現に至るまでの障壁は少なくない

一つ目の「知識や技術」に関する不安ですが、前向きな理由で転科するのであれば、これまで積み重ねてきた分と同じだけの情熱と努力を持って望めば、大きな問題にはならないケースがほとんどです。しかし、専門医資格は規定の症例数などクリアすべき明確な基準があり、医療機関の指導体制も問われるため、ここが障壁がなることは少なからずあります。

医師の専門医資格を広告することが可能になった今日、患者を確保するうえで専門医資格の有無は重要性を増しています。将来、クリニック開業を考えている方は勿論、そうでない方も将来のキャリアの可能性を広げるためにも、転科後の新しい診療科の専門医資格を取得できるかどうかを見極めることが大切です。

新たな勤務先を探す際には、「過去に転科組を採用したことはあるのか」、「通常の専修医過程とは別に、転科組を対象とした個別の専門医取得プログラムが用意されているか」などを吟味して、慎重に選ぶ必要があるでしょう。